喜んでいる顔を見られる嬉しさが原点
SAORI KAWAHARA
京都フォーシスターズレジデンス
株式会社RIVER FIELD
代表取締役 河原さおり
建設中のマンションを急遽ホテルへと計画変更し、
「京都フォーシスターズレジデンス」を開業、
あこがれの女将となった河原氏。
彼女の言葉には、自身の夢とリスクをも選ぶことができる
決断力と意志の強さが光る。
Photos 大山雄大 Yudai Oyama
Styling, Hair&Make-up 足立詠美 Emi Adachi
Words 浅野晶 Akira Asano
やっぱり、ホテルをやりたい!
建設途中でマンションからホテルに変更されたとお聞きしましたが?
そうなんです。私の一言でどんでん返ししてしまって(笑)ご縁をいただいてマンションを建てることにしたのですが、自分が運営できるホテルにしたいと思いついてしまったのです。周りからは、マンションを軌道に乗せてからやればいい、などアドバイスをいただいたけど、今やりたい!助けてもらえる人もたくさんいたし、絶対できる!と。今考えたらよくやったなと思うほど、家族も巻き込みかねない大きな賭けでした。勢いでしたね。失敗したらどうしようか?と思うより「やる」が勝りました。
女将の姿勢に憧れ
ホテル経営にはどのような想いがおありになったのですか?
経験はなかったです。ただ漠然と独立願望はありました。高校卒業後、看護学校に入学したものの、看護師にはなりませんでした。心配をかけた母に申し訳なく、看護師よりも母を安心させてあげられる職業に就こうと考えたのです。エステティシャンやCHANELの美容部員を経て、25歳で結婚しました。主人の紹介で働いたのが300年続く老舗料亭、「いもぼう平野家本家」です。京都ならではの文化を伝え、伝統を守ろうという女将さんの姿勢に凄く感銘を受けました。日本文化の発祥である京都には多様な文化芸術、伝統行事が有りますが、14代女将の文化を「守る」姿勢、新しいものに形を変えてゆくものが多い中300年の「いもぼう」の味を次代に継承する心構え、決意。そして、おもてなしなどを勉強させていただく中で、私も小さいお店でもいつか京都で女将になろうと決めていました。
「絶対できる!」経験が自信になった
未経験からの強い意志、その根源は何でしょうか?
やりたいっていう想いと、うまくいくっていう自信と両方ですね。長らく続けていた接客が好きなんです。人の喜んでいる顔を見られる嬉しさが原点。私自身、家族からたくさん喜ばせてもらい、愛を受けて育ちましたが、社会人になり、エステやお化粧によって目の前のお客様に「本当にありがとう」と喜んでくださることがすごく嬉しかった!CHANELで学んだ美しいものへのこだわり。美意識。「美しいか、美しくないか」で判断する。というのは、お部屋を整える際の判断基準です。経験が自信になりました。決めたら絶対にやり遂げる頑固さが、自分でも怖いぐらいありますね。うまくいかなければ悔しくて一人で泣きます。又は一人銭湯のサウナで瞑想して汗をかいてデトックスします。泣いたらすっきりするので、また明日から頑張ります。
分からないから教えていただく姿勢
ゼロからのホテル経営、成功の秘訣は?
「やるぞ!」と言いながら何もない状態からのスタート。人を紹介してもらったり、経営者の会合に参加したりして、全て人から教えてもらいました。「私、本当に何も分からないんで教えてください!こういう時はどうしたらいいですか?」と、恥ずかしがらずに聞くようにしました。成功されている経営者の方に共通するのは皆さん「与える人」だと思います。愛、思いやり、知識、時間…少なくとも私の周りの尊敬する先輩方は皆さんが「与える人」です。頼み事を快く引き受けてくださる方が多いですよね。私もそうでありたいと思っています。今があるのはみなさまのおかげ。
毎日が本当に楽しい!
2017年の開業から2年、ホテル経営はいかがですか?
毎日が本当に楽しいですよ!私は、海外経験は旅行程度しかないけれど、ここを選び家族や大事な人と来てくれる。行ったことも話したこともない国の方と、この場所で会える。毎日が出会いと別れの繰り返しの中、「選んでくれてありがとうございます。今日のあなたとの出会いに感謝します。」という事は忘れずに日々お客様をお迎えしています。
最高の旅をお手伝いしたい
日々、どんなことを心がけているのですか?
スタッフに話しているのは、必ずお客様とたくさん会話をしよう、ということ。ご案内する時には、一緒にお部屋まで同行して、お部屋の使い方を説明し、旅のご予定を伺いながら観光案内までして部屋を出るようにしています。(もちろん、お客様のご様子で早くチェックインを済ませてお部屋でゆっくりされたい方などは早めに退出するように心がけています。)スタッフの顔と名前を覚えてもらって、例えばシーツを交換してほしいなどリクエストに躊躇されることのないよう、頼みやすい間柄を作りたいのです。モットーは“Super Friendly, Super Kindly, Super Helpfully”(スーパーフレンドリー・スーパーカインドリー・スーパーヘルプフリー)。普通のホテルとは違って、良い意味でアットホームでありたいのです。帰り際、「今度、うちにおいで!」と言われ、そのお客様の国に行ってホームステイする約束をするスタッフもいます。帰られてから送って下さるお手紙も、メールも、帰り際のお礼のメモも私たちの活力になります。
今私のホテルがある場所は京都の中心地、京都御所や二条城のほど近く。先人の方々が開拓し、戦乱や困難を乗り越え日本の歴史が刻まれたこの地に店を構えさせて頂いていることに敬意を表し、訪れた方には京都を十分に楽しんでもらいたいと心から思います。
心遣いを感じられるおもてなし
お客様からの口コミ評価が高いですね。
私自身も旅行は好きなのですが、居心地の良いホテルって、綺麗に整えられたシーツやちょっとしたアメニティーの置き方に客室清掃の方の心遣い、清掃をどんな気持ちでしたのか、その「姿」が見えるのです。私たちも、フロント担当を含めみんなで清掃をし、何人かでチェックをします。自分で仕上げた部屋に案内するとお客様への想いが各段に違います。
設備についても、家具やカーテン、壁紙、小さなお花一つまで、どうすれば喜ばれるかを考えながら決めていきましたし、予約の際にハネムーンなどの用途が書かれていると、サプライズを考えることも楽しみです。受験のために利用される方には、ひざ掛けや卓上電気スタンドなどを用意するととても喜ばれました。この規模だからこそお一人おひとりへの気配りができるので、本当に良い仕事だなと思います。
3人の娘たちに伝えたい想い
フォーシスターズの名前にはどういった想いがおありなのですか?
3人の娘と私を含めて4姉妹(=フォーシスターズ)という意味です。娘達に私の事業を引き継ぐ、という決意を込めています。最終的には4つの施設を運営したいと思っています。ホテルが4つか、違う形態の施設か。娘達には海外留学もさせて、世界ってこんなに広く素晴らしい文化を持った国や人がいることを学んでほしいです。私の働く姿を見る中、お客様や従業員といった「人」を大切にする心や、何かを感じて想いを持ってほしいなと思います。「やりたかったらやれば良い」と言ってくれる主人、子供たちの手伝いをしてくれる母、小さいころから私に女王様のように何でもわがままを聞いてくれ、愛をくれた父も兄も、家族には本当に感謝しています。
お客様に喜んでもらう喜び
子育てをしながらのホテル経営なのですね。
チェックアウトの際にお土産を渡しているのですが、感動したことがあって。開業して1年ほど経った頃のことです。開業時に手伝ってもらっていた派遣会社と少しトラブルがあり、当時のスタッフが違う施設に代わることになりました。スタッフは居なくなり、新たなスタッフを募集してまた一からのスタート。人手不足でそれに加えて年末年始。私も客室の清掃にフロント業務。朝から晩まで忙しい日が続きました。お土産も作る時間がなく家で作っていました。ある時、子どもたちを寝かせてから手掛けようとすると末娘が言いました。「ママ、おきゃくさんすきなん?りーちゃんもおきゃくさんすきやで」奥から自分で折った折り紙をたくさん持ってきて、「これもおきゃくさんにわたして」と、くれたのです。聞けば、姉と3人でこっそり作成していたとか。目の奥が熱くなりました。子どもは分かってくれている!母を、お客様を喜ばせようとした娘に芽生えた想いは私の原点。「他喜力」って人に思ってもみない力をくれますよね。挫折や困難から耐えられたのもこの力のおかげです。
京都への想い
私は小さなころからの「京都に住みたい」という小さな夢を叶えました。京都の繁栄を受けて京都フォーシスターズレジデンスの今があります。私は京都に恩返しをする為、京都が良くなることは出来ることは何でもしたいと思っています。京都コレクションのスポンサーをするのも、頑張る若い子達を応援し活躍を願いたいからです。私はいつまでもこの魅力あふれる古都の街で、世界中から来られる方をお迎えしたいと思っています。
河原さおり
かわはら さおり
1981年2月12日大阪府泉佐野市出身。エステティシャン、美容部員を経て、結婚、夫の家業の不動産賃貸業の事務員に。接客業で得られた、人の喜ぶ顔を見る嬉しさとおもてなしの経験を活かし、2017年滞在型ホテル「京都フォーシスターズレジデンス」を開業。トリップアドバイザーでは最高水準の評価を得るなど、国内外からリピーターが来訪するほどの好評ぶり。女性らしい感性と細やかな思いやりを持ちながらサバサバした性格が親しまれる人気女将。3人の女の子の母親でもある。